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ニュース〜医療の今がわかる

後期研修班会議8

英国家庭医学会のロジャー・ネイバー前会長からヒアリング。同学会は1952年設立と世界で最も伝統のある家庭医の学会という。非常に面白かった。

5つのパートに分かれた話を1つずつ聴いて質疑応答というスタイル。

冒頭のスライド

土屋
「3人以上が共同で診療にあたるということだったが、それはグループ診療のようなものと考えてよいのか。その場合、互いの専門が重ならないような組み方をするのか。専門については専門トレーニングを行うのか。人口が少なくて家庭医の定員が1人しかいないような場合どうするのか」

ネイバー
「1人の医師が場所を所有し同僚を選ぶビジネス的な考え方。それぞれの専門は違う。ほとんどの医師が糖尿病や高血圧は診られて、それ以外の部分がそれぞれ違う。ただ公式なトレーニングを受けて専門を名乗るというのではなく、非公式な専門だ。小さな所はどうするんだという話に関しては、ハイランド地方や島には稀に1人しかいないようなこともあるが、そういう所は非常に限られていて、たいていは2人か3人はいる。移動手段も発達している」

阪井
「契約ということは、患者側でGPを自由に選べるのか、その逆に医師が患者を断ることもできるのか」

ネイバー
「たしかに契約で、患者は自由に選択できる。僻地で選択の余地がないことはあるが、理由の開示なしに変更することができる。逆もある。そういうケースは本当に少ないが、たとえば患者が暴力的だったりという理由があれば契約を断ることができる。しかし、そういうケースは稀で、たいていは患者は自分が心地よいと思える医師を探すことができる。ちょうど2週間前にヘルスサービス憲法ができた。その中に、市民はサービスを受ける権利を持つとともに、サービスを誠実に使う責任があると書いてある」

川越
「日本では在宅で亡くなる方が13%、がんの場合で6%くらい。英国のGPは在宅看取りをどれぐらいするのか。ナースとの共同はどうしているのか」

ネイバー
「正確な数字は分からないが、たしか記憶では60%の人が家かホスピスで亡くなる。急性期は別として、慢性疾患の患者は病院にはいない。ホスピスは家と病院のハイブリッド型のもの。ナースとの共同についてだが、プライマリケアに関してはGPが看護師を雇う。私の診療所では医師が5人、看護師が4人。看護師は軽微な疾患に対応するのと大事なトリアージを行う。地域にはディスクリクトナースがいて、術後の患者や慢性疾患の患者の対応をしている」

川越
「看護師はホームビジットしているのか」

ネイバー
「診療所のナースは検体取ったりということをしていて、慢性患者はディスクリクトナースがやる。全てGPが雇っている」

葛西
「川越先生の質問を明確にするために重ねてお尋ねする。ターミナルケアにおける在宅やホスピスでのGPの役割は何か」

ネイバー
「臨床上の決定、モルヒネの量を決めたり酸素の吸入ができるベッドにするとかそういうことと、もうひとつ家族にとっても厳しい状況になるので、家族と近しくなり感情的な巣支援を行う。亡くなる前、亡くなった後に重要な役割を果たす」

渡辺
「2000人に1人というのは、どうやって配置しているのか。ドイツでは強制配置だったかと思う」

ネイバー
「これは世界共通だと思うのだが、医師の多くは文化的なよい地域で働きたいと思っている、貧困地区や僻地はイヤというのが人情。そのために貧困地区では給料が高くなっていて、それがインセンティブになっている。僻地勤務の手当てもある。中には僻地の勤務や貧困地区での勤務を望む人もいる。ある医師が亡くなって家庭医の定員に空きが出ると地方自治体から募集がかかって埋める」

渡辺
「給料が高いという件、給料はNHSから出ていると思うのだが、患者数に応じて支払われるのではないのか、どういう仕組みで支払われるのか」

ネイバー
「給料の体系は非常に複雑で、固定給の部分と患者数に応じて支払われる部分、それから近年は60%は臨床上の成果、アウトカムファクターによって支払われる。その意味では、貧困地区や僻地の給料が非常に高いということではないが、地域によって微妙に体系が異なっていて複雑だ」

土屋
「検査機器はどの程度のものを持っているのか。たとえば血液検査どうしているのか」

ネイバー
「機器は少ない。超音波の装置と血液検査キットぐらい。血液検査は外部のラボに毎日届けている。X線は置いてあるとは限らない。複雑な検査の必要な患者は病院へ行くことになっている」

2番目のスライド

川越
「GPが専門医とは違う見方をするということがよく分かった。日本でも、そういう見方をしなきゃいけないという議論になっている。英国でこういう見方が出てきた歴史的背景を教えてほしい。日本ではホスピスケアとして、こういう見方が必要だと言われてきた」

ネイバー
「歴史的にいうと1850年ごろまでは英国の医師はすべて家庭医だった。それはサイエンスが発達していなかったから。その後サイエンスや技術が発展して1950年ごろまでは最高の医師は病院で働くということになっていた。1954年に極めたて有名な議論が行われた。ロードモレンという王室お抱えの医師が、GPは昇進のハシゴから落っこちた医師だと言って、その見方が1960年ごろまでは一般的だった。英国家庭医学会は1952年にできた。それはGPが劣った専門という考え方に対抗するためで、家庭医というのがどういった特徴があるのか議論して両方に価値があるんだと対等の関係にするまでに、かなりの年数がかかった。ホスピスは1970年代に看護師の〓という人が創設者として動かした。医療的にはGPが緩和ケアの研修を受けてやってきた」


3番目のスライド

渡辺
「出産を扱うということについて。日本では少子化が進んでいて、さらに高齢出産も増えているためにリスクを負いたくないということで全部専門の所へまわしてしまうので産科が大変なことになっている。GPが出産を取り上げて訴訟はないのか」

ネイバー
「出産自体を扱うGPは殆どいない。それはリスクがあるから。出産はほとんど病院で助産師がしている」

川越
「GPがどの位のことをされているのか。妊娠で危険が高いのは初期に最低限超音波診断の能力は要求されると思うが」

ネイバー
「初期に病院でリスク評価をされて36週まではGP、その間にGPが心配なことがあると、もう一度超音波診断をしてもらえる。このセーフガード。妊娠では予期せぬ出来事が起きて悲惨なことになりかねないので、そこを見極める」

渡辺
「日本では地域バランスと同時に科の偏在も起きている。家庭医が全体の32%という数字だったが、この32%は常に変わらないのか。維持するために、どのような誘導をかけているのか」

ネイバー
「医療従事者の育成計画は大変難しい。誰も正解を持ってない。割合は変わってない。全体の人数が増えているわけで、その分働く時間が変わっている。私が卒業したころは家庭医の40%が女性だった。今は60%。当然ながら女性は出産があるので働き方は男性と異なる。医学の進歩を予測できる人は誰もいないので、たとえば認知症を予防したり改善したりできる手術が開発されたりすると、状況はまた変わるだろう。医療を巡る状況は振り子のように振れていて10年前は医師が足りずに輸入していたが、現在は英国の医学部の卒業生が十分な数になっている。私は専門家ではないので、同じ問題があるということは認識しているが、これ以上詳しく説明することはできない。家庭医への誘導というのは特に必要なくて、空席より希望者が多い。給与がコンサルタント専門医より高いというのも影響していると思う」


最後のスライド
川越
「専門医を選んだ後でGPになりたい人はどうやって入っていくか。もうひとつ、GPに人気が出てきた原因・理由を教えてほしい」

ネイバー
「1つ目だが、専門医研修のうちいくつかは家庭医のコースでも同等に扱われる。たとえば外科医コースの18ヵ月は家庭医コースの12ヵ月に換算される。最高のGPというのは病院の専門医から技術を持って移行するパターンだと思っている。なぜGPが人気かというと、臨床上の評判が高まっているからだと思う。給与面で変更があって、よい収入を得ようとするとよいアウトカムを達成する必要があり、その際にGPのアプローチが高い臨床を達成できるということが分かってきた。対して病院の若い医師は以前に比べると、よりプレッシャーの高い立場に置かれている。労働時間は週に52時間。私が若いころはもっと働いた。つまり、その分昔なら若い人がやっていたようなことをシニアになってもやらなければならないということで、専門医になっても楽しくないという状況がある」

土屋
「ディーナリーの資金、予算の規模と事務局の規模を教えてほしい」

ネイバー
「すぐには出ないので正しい数字は後ほど送る。ディーナリーは研修医の給与、指導医の手当て、教育的イベントの開催費用、教材費など全て予算の中に含まれている。地域の大きさや研修医の数によって異なる。ロンドンは北と南で1個ずつ、スコットランドでは1個で、だいたい300万人から500万人をカバーしている。その座長は保険省から任命される。医師ではない。医師の力が強くなりすぎないためだ。ボードには一般人も入れている」

山田
「1人の患者さんが自覚症状があるとGPに連絡してからどれ位で治療、たとえばがんが確定診断がついて手術できるまでどの程度かかるか」

ネイバー
「アクセス時間の問題はたしかに弱いところだが、GPの収入に貢献しているところでもある。緊急の時には2日以内にGPと面談できる。ある特定のGPを指定した場合はその限りではない。時間管理はイギリスの弱点で、救急はともかく、慢性ケアは時間的には優れていない。それは病院への投資が過少だからで、たとえば吐血などの場合には2日以内にGPが診て、2週間以内に治療が開始されなければならないというのが政府の目標として明文化されている。他のヨーロッパ諸国と比較すると遅いかもしれない。フランスは5日以内に専門医の診断が行われ2週間以内に手術が行われる。しかしフランスでは予算の12.3%が医療へ振り向けられている。英国では病院への予算が少ない。それから看護師の数が足りないので、それが病院での遅れになっている」

阪井
「GPの多くに専門があるというお話だったが、しかし最先端は難しかろう。どうやって最先端をキャッチアップするのか。日本の現状からは想像しにくい」

ネイバー
「5,6年前からGPが専門性を持つものとして契約できるようになった。大事なのは、患者が二級品ではなく最善の治療を受けられること。31学会と協力して、たとえば内視鏡専門になりたいとしたら、外科学会(?ママ)に連絡してトレーニング受けられる指導医を紹介してもらえる。そのトレーニングを受けて一定レベルに合うようにする。最先端の専門医ということではなく、病院に勤務する医師程度には品質管理をしようということ」

葛西
「指導医のトレーニングはあるのか、指導医になるのに資格はあるのか、生涯教育として再認定とか医師免許の更新とかあるのか」

ネイバー
「指導医は人気がある。家庭医として5年とか10年診療をしていると指導医ができるんじゃないかという気がしてくる。そこで手を上げると、ディーナリーから2,3人が訪問してきて、指導できるような設備があるか、知識があるか、教育の方法論をマスターしているか審査される。指導医になるためのコースもある。1週間のプログラムとモジュール毎に月1回ずつ半年とあって、そこでうまくいったら条件承認となって18ヵ月の間に1人だけ指導できる。そこでうまくいくと3年間延長され、期間が終わる毎にディーナリーから人が訪問してくる。指導医になるのは簡単でないし、お金がもらえるわけでもないが、皆指導医になりたいと思う。自分が日々やってきたことの証として楽しみであり名誉でもある。通常は5年程度は診療を行わないと指導医になりたいと手を上げても許されない。

再認証については、昨年8月に5年毎に全医師、GPだけでなくが再認証を取らないといけない制度が導入された。再評価されることに不満を持っている人もいるが」

土屋
「これまで英国の医療の状況について色々な情報はあったが、当事者から伺えたことで、かなり正確に家庭医の良い面が理解できた。しかしながら英国とわが国では地政学的な面は違うので、参考にしながらわが国独自の制度をつくりあげていかねばならない。今後は班員どうしのディスカッションを行っていきたい」

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