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「妊婦さんの笑顔を見たい」―大野事件・加藤医師が公開シンポで講演


■被災地の性的虐待問題と、妊婦へのヨウ化カリウム「初期投与失敗」

 最初は司会の関根氏、勝谷氏、梅村氏、西尾氏が災害医療について議論。震災発生直後にDMAT(Disaster Medical Asistance Team:災害発生後72時間の急性期に活動する医療チーム)のメンバーとして被災地に駆けつけた西尾氏は、医療者自身の身動きがままならない状況だったと話した。「道がなく車も通れなく、電気も水もなく、携帯も使えなかったのでどうしようもなかった。仙台の僕が行ったところでは50チーム集まったので250名の医療者がいたが、一日に来た患者さんは150名ほどで、災害と言えない状況。でも他にも患者さんはいっぱいおられるだろうと思いながら、僕らも食料もガソリンもなくなり帰っていったが、胸が苦しくなった」と、再び慢性期医療チームとして出直して行ったと述べた。
 梅村氏が透析患者搬送の問題について述べると、勝谷氏は「自衛隊は自己完結する組織だが、3日目でガソリンがなくなった。自衛隊の最高幹部に聞いたが、国家備蓄している石油があるのでそれを出してくれと言ったら『もっと大事な時に出す』と言われた」と、決断できない国の体質を指摘。官僚や政治家は責任を取ろうとしないと批判した。
 


 開始後約40分経ってから、壇上に澤氏と加藤氏が加わった。

 司会は、福島県立大野病院が福島第一原発から約3キロという至近距離にあったと解説した。

*ちなみに「患者置き去り報道」で問題になった双葉病院と大野病院は約2キロの距離。なぜこの地域にこうした問題が集中するのか・・・。

双葉病院の患者置き去り報道・・・東日本大震災発生後、双葉病院で医療者が患者を置き去りにして逃げ、患者が死亡したとの報道があった。この報道は県の「病院関係者の付き添いはなかった」とする発表を元にしたもの。県はその後「避難時に院長がいた」と訂正し発表したが、病院に対する非難は続いた。

 現在加藤氏の勤務する国立病院機構福島病院は須賀川市で内陸にある。司会に今の福島県の状況を尋ねられた加藤氏はこう語った。「福島県は浜通り、中通り、会津とあるんですけども、浜通りは医療は相馬といわきの方で頑張っていらっしゃるけど、ドクターも患者さんも非難しておられるので、ほぼ崩壊状態です。中通りは線量が相馬やいわきより高い場所もあるので、お子さんや女性が他の地方に逃げている方もいらっしゃいます。産科施設では忙しい施設もあれば、年間で言えばお産が100ぐらい減ってしまうような開業の先生もいらっしゃいます。会津の方では避難されている方もいらっしゃって人口も増えて、医療関係者はかなり忙しくされている状態です」。妊婦の様子については「妊娠して初めて受診される時に、『影響はどうなんでしょうか』という話はほとんどの方がされています。最近は少なくなってはきているんですが、2週間に1回ぐらいはありますけれども、医師会の方から中絶を勧める必要はないという文書が僕らに届いていますので、そちらの方をお見せしているんですけども、後はご家族で相談してくださいとしか言いようのないところもあります」。 

 澤氏は災害時の問題について「これは嫌な話ですが」と前置きした上で、「僕が一番最初に何を考えるかというと、アフター・ピル(モーニング・アフター・ピル:性交後72時間以内に服用する緊急避妊薬)をどうやって配ったらいいんだろうということ。大災害が起こると、性的虐待を受ける子供たち、女性が少なからずいらっしゃいます」と話した。阪神淡路大震災でも強姦が多数発生して心的外傷を残している女性が多いとして、東日本大震災でも女性が被害に遭わないように張り紙をするなどの対策を取ったと語った。女性や子供に性的興味のある人が「ボランティア」や「小児科医」と詐称し、善意を装って被災地に入るため、「被害に遭った女性や子供は余計にストレスがすごく大きくなる」とした。


 続けて澤氏は、震災発生後の3月15日に日本産科婦人科学会から子供の甲状腺がんの発症を予防するためヨウ化カリウムの服用を勧める文書を出したが、「放医研(放射線総合医学研究所)の(原発)推進派ですよ。その先生たちからものすごいクレームが来たわけですよ。何でお前たちのところは、公益法人たるものがそんな人心を惑わすようなことを言うのか、というようなことを言うんですね」と、反発を受けたために妊婦への投与が進まなかったと明かした。「実際は、非常に悲劇なんですけども、(ヨウ化カリウムの)初期投与に失敗しています。おそらく子供の甲状腺腫瘍は3、4年で出てくるんだと思うんですよ。その時に果たしてそういう事を言っている人たちが、本当に責任を取るのかということ」と訴えた。ただその際に訴えられるのは法務大臣だとして、クレームを言った当事者は責任を免れる可能性を指摘した。

 これを受けた勝谷氏は「国家賠償は国の故意の過失によって被害を受けた時に、国に対して賠償を求めるもの。国が払うけどその原資は何かというと皆さんの税金です。もちろん僕たちは助けることにはやぶさかでないけど、バカ者どもが下手を打ったせいでまた皆さん税金を取られるんです。何兆円になるか想像がつかない」と述べた。

 次に西尾氏。「どういう判断でされたかが一番問題です。科学的根拠が『投与の必要なし』とされるなら、僕たちは根拠に基づいて医療をやっているので仕方のない面があると思うが、単なる政治的な力であったり、自分たちのやってないことを先にやられたとか、違う要因でやられた場合はあまりにも悲し過ぎる。この国は、先ほどから色々裏の話を聞いていると心がどんよりしてくる。僕たちが(患者のために)考えていることじゃなく動いている事柄が多い気がして、そうだとしたらあまりにも悲し過ぎる。それが自分の子どもだったらその怒りをどこに持って行ったらいいのか見えなくてやりきれない」。

 勝谷氏が「どこが危ないかの情報については即座に出さないといけない。SPEEDI(文科省の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の調査で風向きによって分かっていたわけです。それをしかし政府は出さなかった。これは国会に事故調査委員会が作られるけど、誰が責任者でなぜそれを隠蔽したのか(追求されるべき)」と投げかけると、梅村氏は「SPEEDIの結果はある日見たんですよ。その部屋は有識者が集まっている部屋で、『ここで出前取って昼飯食え』と。『梅村さんもここで』と、要するに外に出て行って資料を持って出て行ってもらったら困る、というようなことはやっていました。日付ははっきり覚えていませんが、まだ世の中には出ていなかった時だったと思います。そういう事実はありました」と述べた。
 
 梅村氏はさらに、原発作業員のために血液内科医らが提案している自己末梢血幹細胞採取に関する省庁や有識者の態度についても発言。自らのスタンスは「国が一律に決めるのではなく、やりたい人はやって、やりたくない人はやらなくていい」とした上でこう述べた。「有識者の周りにある省庁の方が『すみませんけど、この治療法はぜひやってくれというふうに、表で言わないでください』と頭を下げていた姿は見ました。僕は別のことをこっちでディスカッションしていて、なんかある人がわーっと回っているなと思ったので、後で『何を言われたのですか』と訊いたら、『あまり煽り立てるようなことは言わないでほしい。なぜなら、なんとか学会がそれを推奨していないから』と言い訳をしていると。それで私がなんとか学会に訊いたら『最初から反対してくれという電話が省庁からあったんだ』と、いうようなことがありました。そういう動きがあったのは事実なので、事故調で検証しないといけない」。
 厚労省が自己造血幹細胞の採取・保存を政策として行わなかった理由については、「一つは承認されていない薬を使うなという事。100ミリシーベルト以上浴びるような作業をするはずはないから、それを前提にした政策はしない、これは『原発が事故を起こさないはず』というのと一緒の論理。でも実際は250ミリシーベルトに上げているんですよ。250ミリシーベルトを超えた作業員も実際に出ています。そういうことが出た場合どうするかの"管理"の話が大事なのに、彼らはそういうことは起こるはずがないから言わないで下さいと。仮定の問題には答えられないというよくある話です。そういうことが目の前で繰り広げられていた」。


災害医療についての議論は約1時間20分。次にメーンの産科医療に入った。

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