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ニュース〜医療の今がわかる

「妊婦さんの笑顔を見たい」―大野事件・加藤医師が公開シンポで講演


■「世界一珍妙な『記者クラブ』、真実は報道されない」

勝谷氏(左)梅村氏(中)西尾氏.JPG マスメディアの報道の在り方についても議論した。
 加藤氏は「印象に残っているのは第一回公判の時のニュース報道を、一応録画しておいたんですね。後から見た時にですね、レポーターの方が『専門用語ばかりで私には理解できませんでした』という話をしていたんですね。それを公の場で言っちゃっていいんでしょうかという話で、だったらもっと勉強してから行くべきだな、とは思いましたね。そこから、マスコミから取材依頼があってもお答えすることはしないようになりました」と述べた。

 勝谷氏が勾留中の報道についての印象を問うと、加藤氏は「中に入っている時も、弁護士の先生がえらいことになっていると、支援の輪が広がってて、報道もとんでもないような状態になっているというのはお聞きしていたので。実家に帰った時に親が全部切り抜きを置いていたので、それを見させていただいたんですけども・・・、違うな、というのはありましたね。こんなこと言ってないよというようなものももちろんありましたし。報道の方って、警察の方から色々話を聞きますよね。結局警察の方ではいい話しか出さないんですね。有利な話しか。そんなことちょっとは言ったかもしれないけど、メインはこっちだったとは言ってくれないんですね。それがマスメディアなのかなと僕は理解しました」と答えた。

 続いて勝谷氏が現在の記者クラブ体制を批判。「日本には記者クラブ制度という世界一珍妙な制度があります。ホワイトハウスの会見でも、僕でも身分証をきちんと登録すれば入ることができる。だけど週刊文春の記者だった僕は、例えば加藤先生の事件を県警本部が発表しているその場に入ることすらできません。入れるのは大マスコミの方々だけです。さっき言ったように、医学用語を勉強していないような駆け出しでも、その会社の名刺を持っていれば入ることができます。そういう連中が、なぜか同じ記事を書きます。最近特にひどくなった。事件事故の記事がほとんど同じ。なぜなら今の記者は、ある支局長が嘆いていましたけど、昔の似たような記事をデータベースから呼び出してきて、場所と時間と人名だけを変えて入れるそうです。それを各新聞がみんな繰り返していると、どんどん記事が似通ってきます。ウィキペディアを張り付ける学生と同じ。でもそういう状態で、どこの世界にライバル会社と横に机並べて、『お宅どうする』と言いながら。これはまさしく談合ですよ。それでその記者クラブは県警本部の中とか県庁の中にあるんです。どこの世界に監視する対象の中に部屋をもらって、昔は家賃まで払ってもらっていました。山口組の本家の中に派出所があるようなものじゃないですか。それで監視なんかできるわけがない。検察に関してはひどい。検察は司法記者クラブ。検察がこれを書けと言ったことを書かなかったら翌日から出入り禁止。書くなと言ったことを書いても出入り禁止。そうすると自分とこだけ『特落ち』(他社がみな扱っている大ニュースを掲載し損ねること)になって記事を書けなくなるから、みんな検察の顔色を見ながら書いている。だから向こうの言いなりのことが大量に垂れ流されて、世論というものができて、裁判長の心象もできるわけです」。

 梅村氏は、このシンポジウムのチラシを厚生労働省の記者クラブに配ったと話した。「するとある大手の、全く厚労省と関係ない記者さんが来て、『梅村さんはお医者さんなのでこうやって加藤先生を呼んで、お医者さんがかわいそうだという事をあおるつもりなんですか』と言ってきました。いや違うと。そうじゃなくて一般の市民の方にお話を聞いていただいて、どう感じるかは市民の方一人一人が判断する話。むしろ『あおる』と言う事自体が、あなたが頭の中に対立構造を作って考えているという事なんでしょう、ということなんです。その一言にすべてが表れている。だから今回僕が加藤先生をお呼びしたのは、今は判断する材料が新聞しかない。患者力というのはリテラシーを高めるという事だから、皆さんに判断していただきたいと思った」。

 飛行機搭乗のため退出時間の迫る加藤氏に、司会は会場からのアンケートの読み上げた。「イケダマサヒコさんという51歳の医師の方からこんな言葉が贈られています。加藤先生はご自分の状況を客観的に見る能力をお持ちなので、これから一臨床医だけでなく、産婦人科や日本の医療のために加藤先生にしかできない役割を果たしてはいただけるのでしょうか、というご質問というかご意見ですがいかがでございましょうか」

 加藤氏はこう答えた。「ありがとうございます。うぅーん・・・、そうですね・・・。よくまあ産科医の象徴だとか、色々言われたりするんですけども。僕の能力にもやっぱり限界があってですね、アピール不足とか、えー・・・、話が下手だとか、色々あってですね。後はマスコミ嫌いというのもあるんですけども、とにかく医療のために、やっぱり恩返しはしないとなと、考えています。・・・ええ・・・。恩返しは本当にしたいですね、色々な方に、助けて頂きましたので、その恩返しの方法としては、どういう方法になるかというのは、いずれ見つかってくるのかな、というふうには考えています」。

 登壇者から加藤氏へ一言ずつ。まず澤氏。「僕らは本当に残念なんです。亡くなられたら、さっき西尾先生が言葉を詰まらせたじゃないですか、残念なんですよ。それをなんとか伝えたい。本当のことを公判でも、本当に一つのことしか言わなかった。一回も変えることなく同じ。でも本当のことを言うことが、加藤先生が同じ医療界の人や患者さんにも理解をしてもらう、それが多くの人たちの力になると私は思います」。

 次に勝谷氏。「(加藤氏を)産科医療の象徴とかそういう風に持ち上げたくはないんですね。ただ、今まさに澤先生がおっしゃったように、正しいものは正しいんです。それは別に医療の現場だけでなくて、それをちゃんと貫き通すという意志力と言語力と知性、それを僕は学びたいと思いますし、逆に僕は子供たちなんかにぜひこの話は聞かせてあげたい。先生に叱られて『お前がやっただろ』と言われたからって、おどおどしてその場を切り抜けるためだけに『僕がやりました』と言ってはならない。やってないんだったらやってないと言うことが社会のためでもある。と同時に、それでも不正を働く権力を握ったやつがいるということを我々は知っていないと闘っていけません」。

 梅村氏。「この問題の本質は、残念な事案が起きた時、あるいはいわゆる事故というものが起きた時、これを切り離して外部に託してしまうという文化は、これはなくしていかないといけない。そこも含めてどう折り合っていくか、そこの部分も合わせて医療なんですね。ところがそこを手を放して出るとこ出て勝負しようかと、専門家がそこは処理するからあんたらは医療本体だけやっておけという考え方がこういうことを引き起こしているんですよ。だからインフォームドコンセント、治療前もそうだし、本体もそうだし、何かあった時の対応も含めて、本来医療の一部なんです。だからこの事案の一番の問題点は、そこを切り離して、『それはあんたら医療界のやることじゃない。患者さんも当事者の話じゃない。出るとこ出て勝負しましょか』というこの文化ができそうになっていることが、僕は一番の危機だと思う。そこのところを政治家としてしっかり環境整備できるようにしていきたい」。

 西尾氏。「一臨床医として、分野は違いますけど、同じように今後地域医療に進んでいきたいなと思います。今日は皆さん多分、加藤先生の気持ちが伝わったと思いますので、今後同じように頑張っていきたいなと思います」。

*終了予定時刻の17時を過ぎて、会は終了。
会場を離れる際、加藤氏にいただいたメッセージはこちら

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