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ニュース〜医療の今がわかる

なぜ愛育病院は「総合周産期母子医療センター」返上を申し出たか(下)


 時代の流れとして労働基準法が遵守されてない状況の医療現場に対する是正勧告が相次いでいるのだとしても、次官人事などを見込んだ上で旧労働省側の「活気」がなせるものなのだとしても、今回の騒動は医療現場の深刻さを改めて示しただけで、問題はまだ何も解決していない。


 勤務医の立場から医療崩壊の打開を訴えている済生会栗橋病院の本田宏副院長は、「庶民的な感覚からすると、厚生省と労働省が合併すれば、両方が連携して勤務医の労働環境は改善されると思った。だが、医政局と労働基準局とでは動きが全然違って縦割りだということが分かり、甘かったと思った。ただ旧厚生側も財務省から色々と言われるのは分かるが、医療費抑制政策を見直すなど何らかのアクションを起こしていかなければ、是正勧告が入っていく状況の中で医療を守ることを打ち出せないのではないか。今回の是正勧告がいい方向に行くことを期待したい」と話す。

 病院医療の質や機能について第三者評価を行い、医療安全に関する研修なども行っている日本医療機能評価機構の河北博文専務理事も、「今まで黙認してきた人たちが、法律があるからと言って、法通りに執行しようというのが間違っている。できないなら現実にどうすればできるのか、順番を間違えないように、時間をかけていつまでにやるかを一緒に考えていこうと言いたい。勤務シフトや医療安全を考えれば医師の数は必要。行政にはきちんと考えて動いてもらいたい」と主張する。

 しかし、厚労相周辺は「医政に携わる職員も、労働に携わる職員もそれぞれの職務にのっとったことを淡々とこなすという官僚の動きにのっとったもの。トータルで見たら医療の現実に即していない動きになっている。本来はこうした時に官房など、大臣筋から調整していくしかないが、いまは全く機能していない」と語る。

 厚生労働行政のバランスが取れないのならば、せめて誰かが現場の声を行政や政治に届ける必要がある。しかし、それも足りない。ちょうど愛育・日赤騒動直後の4月3日から京都で日本産科婦人科学会が開かれていた。だが、ある幹部は、こう振り返る。「上層部の主要な関心事は、学会を支部まで含めて公益法人化できるかどうかということだった」

 横浜市内の病院で働く産婦人科の小笠原加奈子医師は、こう語る。「わたしたちは、労働基準法を守ることは無理だということは分かっている。それならば、せめて誠意を見せてもらいたいと思う。それでも、最近患者さんからはなかなか『ありがとう』とは言ってもらえない。それならせめてお金をといっても、そうもいかない。わたしたちも何とかしたいとは思っているけど、現場の医師は忙し過ぎて声を上げる余裕もないので、本当は学会にもっと頑張ってもらいたいが、上にいる方々は現場の感覚を失ってしまっている」

 「労働基準法の遵守」と、「人材や医療費の不足、偏在」という"諸刃の剣"の問題を抱えた医療界に、労基署からの是正勧告や調査という楔(くさび)が打ち込まれた。「パンドラの箱が開いた」と表現する医療者もいる。今の勤務医の労働環境を見れば、今後も是正勧告を受け、対応を迫られる病院の出てくることは間違いない。

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