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「国民への還元につながらない」―最先端研究支援プログラムに、米ベイラー研究所の松本慎一氏

 政府が4日に開いた総合学術会議で発表した「最先端研究開発支援プログラム」の選定結果について、助成を得られなかった申請者の一人の米ベイラー研究所フォートワースキャンパスディレクターの松本慎一氏は、「日本も大型の研究費が配布されるようになったと期待していた分、選考の仕方があまりにも未熟なので寂しく思っていた。今回選ばれた医学系の研究はすべて基礎医学で、臨床につながらない分野のため、国民への還元につながっていかないと思う」と失望感をにじませた。(熊田梨恵)

 松本氏は日本国内で初めて膵島移植を行った元京大膵島移植チームリーダーで、膵島移植術に関して世界の第一人者と言われる。ロハスメディアの取材に応じ、今回の研究計画について、申請から発表に至るまでの経過を振り返った。
 
 
 海外に拠点を置く日本人研究者が日本国内で行われる研究助成に応募できるケースはこれまで少なく、今回の申請に至ったという。松本氏の研究テーマは「ベータ細胞補充療法による糖尿病の治療法確立」。豚の膵島を使ったバイオ人工膵島の標準化を目指した研究で、5年以内には標準治療になると言われる膵島移植に関する"旬"の研究分野だ。また、このプログラムは通常の研究費では充てられない人件費に使えるという特徴があったため、"就職難"とされるポストドクターを多く雇用して研究スタッフにし、5年間の研究の成果を見るという側面もあった。松本氏は「研究には人手がかかるが、なかなか人を雇えない。就職に困っているポスドクの雇用促進と、研究の推進という両面があり、医療界にとっても研究そのものにとってもよい話だったと思う」と話す。
 
 このプログラムによる助成額は2700億円で、1人当たり3-5年で30-150億円という前例のない規模の国家プロジェクトだ。米国で行われている同規模の研究助成を知る松本氏は、申請する際の違和感を語った。「アメリカと比べて提出する書類が少なく、驚きや戸惑いがあった。『思いのたけを書いて下さい』というような欄があったので、そういうこともあるのかと思った。研究者は純粋だから皆一生懸命書いたと思う」。また、臨床系研究者の応募枠は「糖尿病」「がん」「認知症」だったが、「糖尿病」で申請したのは松本氏のみだったという。しかし、ヒアリングには呼ばれなかった。
 
 審査の過程については、「米国で同じ規模のプロジェクトがあったとすると、それぞれのプロジェクトに2日をかけて審議する。プレゼンテーションと質疑応答で1日、施設見学で1日の合計2日。アメリカ方式がよいと言っているわけではないが、今回の審査は成熟したものになっていないと考えているし、こんな短時間で本当に内容を見ることができたのかとも思う。米国の場合は各応募者に対して具体的な改善点が示されるので、例え選ばれなくても将来に大きく成長する可能性が高くなる」と語る。 
 
 松本氏は選考結果を聞いた感想を「臨床応用から標準治療へと、国民への還元を考えていた私には、臨床に届かない研究が多くがっかりしていた」と語る。「膵島移植だと2000年にカナダのグループが臨床成功例を発表し、当時のクリントン大統領が全面バックアップを約束した。あれから9年経つが、まだ標準治療になっていない」と、医学研究の成果を臨床現場で使えるようにするには長い年月と巨額の費用がかかるとして、そこに今回のプログラムの研究費用を投入してほしかったとした。
 「採用されなかったことについては謙虚に受け止めている。ただ、この種の大型プロジェクトの審査には専門家による十分な議論が必要と考えている。今回のプロジェクトは"人"を大切していることは高く評価されるし、これは今後の政策においても生かされるべきだと思う。しかし、巨額国家プロジェクトであればなおさらのこと、審査の過程で十分に議論し尽くさなければ、今後日本の科学研究に発展は生まれないと思う」


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