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政権交代で、在宅医療はどうなる?

「何をもって在宅医療が進んでいると評価するのか、にわかに答えかねる」─。厚生労働省の担当者は、「これまでの政策は(民主党に)ご理解いただけているとは思うが......」と言葉を濁す。(新井裕充)

 厚労省が9月7日に公表した「平成20年受療行動調査の概況」によると、「完治するまでこの病院に入院していたい」と答えた入院患者は45.9%と半数近い。また、退院の許可が出ても「自宅で療養できない」と考える入院患者は33.0%だった。
 厚労省の担当者は、「自宅で療養できると考える入院患者は50.0%で、前回(調査)よりも8.4ポイント増えている」と強調するが、「何をもって在宅医療が進んでいると評価するのか」と歯切れが悪い。

 在宅医療は、外来医療、入院医療に続く"第3の医療"といわれる。長期入院による医療費を抑制するため、医療制度改革や診療報酬改定などで、入院医療から在宅医療への移行が進められてきた。
 2005年の医療制度改革大綱は、「終末期医療の患者に対する在宅医療の充実」を掲げ、06年度の診療報酬改定では、「在宅療養支援診療所」を創設し、手厚い診療報酬を付けた。
 続く08年度改定では、「在宅療養支援病院」を創設したほか、75歳以上の高齢者らを対象にした「後期高齢者医療制度」をスタートさせた。厚労省は、入院患者を積極的に在宅復帰させた上で、地域の開業医らが中心となって在宅医療を進めていくというデザインを描いたが、「後期高齢者医療制度」に対する批判を受け、"いまだ道半ば"という状況。民主党は同制度の廃止を主張している。

 民主党の政策集では、「廃止に伴う国民健康保険の財政負担増は国が支援します。国民健康保険の地域間の格差を是正します。国民健康保険、被用者保険などの負担の不公平を是正します」などとしており、主に保険料負担の問題に焦点が当てられている。

 在宅医療について、埼玉県内の開業医は「3つの条件が揃わないと難しい」と指摘する。その条件とは、介護できる人がいること、自宅に介護できるスペースがあること、そして、お金があること─。
 「車いすが出入りできるように自宅を改修する必要もある。家が広々としていて家族が介護してくれる場合はいい。経済的なゆとりがあれば、ホームヘルパーはもちろん訪問看護や往診も十分に受けられる。しかし、生活保護を受けているなど経済的な余裕がなく、独り暮らしや老夫婦だけで何とか暮らしている場合が圧倒的に多い」

 厚労省の担当者も、「在宅のほうが入院よりも当然お金は掛かる。このことを知らない記者が意外に多いようだが、在宅医療は人的資源の面で無駄が多い」と言う。「入院と違って"ホテル・コスト"は掛からないが、自宅を訪問するための移動時間など、医師が診療以外に費やす時間がある。在宅医療の推進が医療費抑制になるかは分からない」と明かす。

 在宅医療が診療報酬で高く評価される中、24時間体制で往診する「在宅療養支援診療所」の届け出は1万施設を突破。08年度の診療報酬改定では、在宅医療推進策の"駄目押し"として、開業医と病院、訪問看護ステーションなどとの連携や情報共有を評価する点数を設定した。
 厚労省の担当者は、「誘導だからやむを得ないが、在宅(医療)には『これ以上無理』と言うほど点数を付けた」と言う。しかし、患者負担をどうするかという問題は根強く残っている。

 診療所と病院との連携にも問題がある。厚労省の「在宅療養支援診療所の実態調査」(07年7~8月調査)によると、連携医療機関との会合をまったく開いていない施設が32.4%、「1か月に1~3回」が36.9%で、診療所と病院との連携が進んでいなかった。
 こうした状況を踏まえ、08年度改定では、自宅で療養する患者の往診や訪問看護を24時間体制で実施する「在宅療養支援病院」を評価する点数を新設した。
 在宅医療に長年取り組んでいる東京都内の中小病院の事務長は08年度改定を前に、「在宅医療を支援する病院に高い点数が付けば、当院の経営状況も改善する」と笑顔を見せていたが、その期待が裏切られた形になった。「診療所のない地域においては」という条件が付くからだ。
 つまり、在宅医療を担うのはあくまでも診療所であり、診療所がない地域に限って病院が在宅医療を支えるという「役割分担」を明確にした改定だった。

 「在宅療養支援病院」の創設を決定した07年12月14日の中医協で、厚労省の担当者は「病院が自ら出ていくというよりは、在宅療養支援診療所をバックアップするような役割を(支援病院に)求める」と説明した。
 異論もあったが、「在宅療養支援病院」の要件は「当該病院を中心とした半径4キロメートル以内に診療所が存在しないこと」「往診を担当する医師は当該保険医療機関の当直体制を担う医師とは別の者であること」など、極めて厳しいものになった。

 しかし、「夜間に急変した時に困る」という理由で、家族が退院に同意しないケースもあると聞く。「在宅医療は診療所、病院は後方支援」という方針で在宅医療は進むのだろうか。もし、今後も在宅医療を推進する方針に変わりがないならば、在宅医療に取り組む病院を診療報酬で十分に評価することが必要だろう。
 

 
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