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ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼5 小野俊介・東大大学院薬学系研究科准教授(上)

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 元厚生労働省大臣政策室政策官の村重直子氏が在野のキラリと光る人たちと対談していきます。5人目は、元厚生労働省の薬系技官でPMDA発足時には審査官として出向していたこともある小野俊介・東大大学院薬学系研究科准教授です。非常に大きな話で議論が白熱したため、3回に分けてお伝えします。(担当・構成 川口恭)


村重
「未承認薬や適応外使用薬、いわゆるドラッグ・ラグの問題に関して、2月から厚生労働省の検討会が開かれていますが、ラグの解消はほとんど期待できませんね。小野先生は、『薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会』で、薬事行政が何かしただけでは、ラグは絶対になくならないと仰いましたよね」

小野
「ドラッグラグの話は本質的には、企業の世界におけるビジネス戦略の問題であって、日本の行政が先にくる問題ではありません。厚労省の制度運用がドラッグラグの原因の一部であることは間違いありませんが、それを企業のグローバル戦略より先に考えるのはどうかと思います。新薬の世界的な開発状況を見ると、世界の製薬企業が、戦略として日本を後に置いていくのが良いと判断していることは一目瞭然です。世界レベルでのお金儲けの視点で日本は割に合わないから置いていかれているということですね。だから、今後ドラッグラグが改善するかという問いに単純に答えると、基本的には全く解決しないというか、今後も状況が自然に良くなる要素はほとんどないと言わざるを得ないところです。こうした現実の登場人物の行動をきちんと見ずにドラッグラグの対策の話をするとまるで神話の世界になってしまいます。その辺を踏まえた上で、行政が本来なすべきことをしていないのではないかという指摘も、もちろん当たっていると思います」

村重
「国内で既に承認を受けている薬を、ある病気の人は使えるのに他の病気の人は使えないというような、適応外使用の問題についてですが、抗がん剤などは海外データがたくさんあるので分かりやすいですよね。例えば、日本でも肺がんやすい臓がんなどに使われている抗がん剤が、卵巣がんは適応外だから使えなくて困っている患者さんたちがいます。卵巣がんについても、海外にかなりのデータがあって広く使われているのに、さらに日本でも臨床試験(治験)しないと厚労省が認めないと。患者さんのために必要な臨床試験ではなく、役人の手続きのための臨床試験に費用や時間だけがかかっているように見えます。ただ、じゃあ何でもかんでも使っていいかというと、承認された薬でも、全く違う目的で使うとか、患者さん側のリスクが違う場合もあるので、そういう場合は、リスクと安全性をきちんと治験をして確認しないといけないんですよね」

小野
「その通りだと思います。国民が薬を安心して使うためには一定のデータは必要です。ほとんど人に使ったことのない薬を突然日本に持って来て使うというのでは危なくて仕方ないわけです。一方で、ある程度の使用実績が海外であるような薬について、わざわざ繰り返し日本で貴重な資源を投入して臨床試験を行う必要性があるのかないのか。それを見極めて、必要なものは追加試験、必要でないものは試験なしにゴーサインを出すという、そういう判断を行う機能が必要です。

その際に、誰がそれを判断するのかが重要なポイントですが、あまり議論されません。今は、厚労省とPMDAが通常の新薬と同じように適応外使用の是非を判断すると言っていますが、別の人や機関に任せるという選択肢もあります。例えば米国では、保険者が一定のルールに基づいて判断しています。日本では、お薬の価値や使い方の判断がPMDAという新薬審査機関に独占されていて、そのことに皆疑問を持ちませんが、そういう機関が2つや3つあったって何もおかしくありません。もともと、規制当局は、科学的審査をPMDAが、行政的な判断を厚労省が行うと常々言っており、既に判断機関が2つあるようなものですから、それが3つになったって、4つになったって、そこに目的の違いに応じた明確な役割分担がある限り、本質的には何もおかしくありません。科学が及ばぬ薬の使い方の世界で、科学という言葉に胡坐をかくたった一人の独占者だけを頼りにするのは、むしろ危険なことです」

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