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ニュース〜医療の今がわかる

「妊婦さんの笑顔を見たい」―大野事件・加藤医師が公開シンポで講演

全体風景.JPG 日本の医療の歴史を変えた「福島県立大野病院事件」。これまで一般聴衆の前に立つことのなかった元被告の加藤克彦医師が10月8日、兵庫・尼崎市内で講演した。(熊田梨恵)

 「大野病院事件」なしに日本の医療問題は語れない。医療費抑制政策、医師・看護師不足、相次ぐ公立病院閉鎖、医療訴訟、へき地医療、医療事故調査組織、患者と医療者の意識格差など、日本の"医療崩壊"に拍車をかけるトリガーとなった出来事だ。

◆福島県立大野病院事件
2004年12月17日、福島県立大野病院で妊婦が帝王切開手術中に死亡。翌年3月、福島県は事故調査委員会の報告書を公表し、病院長らは「医療ミスだった」と認めて遺族に謝罪した。福島県富岡警察署は06年2月に執刀医だった加藤氏を業務上過失致死と医師法違反の容疑で逮捕。福島地方検察庁は同年3月に加藤氏を起訴、福島地裁で14回に及ぶ公判が行われた。逮捕されている加藤氏の様子がテレビで映し出され、「医者が患者の命を奪った」とするセンセーショナルな報道が医療者と患者の間の溝を深めたとも言われる。この間、医療界からは「患者を助けるために医療を行った医師が逮捕されるのはおかしい」と、加藤氏の無罪を主張する声が上がり、各地で支援活動が行われた。08年8月20日、地裁は加藤氏に無罪判決を言い渡した。
事件の影響は大きく、訴訟を懸念した産科の閉鎖が相次ぎ、産科を希望する医師も以前に比べて減ったため、"産科崩壊"に拍車をかけたと言われる。加えて、医療事故が起こった際の調査組織の設立を求める声も上がり、厚労省は医療事故調査組織を作ろうとしたが、民主党と医療界が「警察や司法の介入の在り方が不透明」としてはねつけたまま現在に至っている。それまで医療界に対して厳しかったと言われるマスメディアの報道も事件以降軟化し、医療側に配慮した報道が増えたとされる。大野病院事件は国による医療費抑制政策が引き起こした"医療崩壊"の象徴の出来事として言われる。
なお、ロハスメディアは大野病院事件の裁判を傍聴し、ほぼすべての内容を詳細に記録している。これによっていかに検察が無茶を仕立て上げている事件だったかが白日の下に晒された(下の方にある公判のページをクリックしていただきたい)。


 加藤氏は臨床現場に復帰し、現在は国立病院機構福島病院の産婦人科部長を務める。公の場で話したのは3回目。7月に開かれた日医総研のシンポジウムと、8月に行われた元帝京大学医学部の森田茂穂教授の追悼行事以来。ただ、どちらも参加者を限定した行事だったため、一般聴衆を前に加藤氏が話すのは初めてだ。

 主催は元朝日放送アナウンサーの関根友実氏が立ち上げた医療支援ボランティア団体「医療を支える関西オカンの会」で、発足以来毎年医療をテーマにしたシンポジウムを行っている。今年のテーマは、「患者力Ⅲ 産科医療~かけがえのない新しい命を育むための患者力とは」。

 パネリストは、毎回参加しているコラムニストの勝谷誠彦氏、参院議員で医師の梅村聡氏、奈良県立医科大准教授で救急医、小児科医の西尾健治氏。今回のゲストとして、加藤氏、日本産科婦人科学会副幹事長の澤倫太郎氏を迎えた。参加者には医療者や加藤氏の患者だったという妊婦の姿も見られ、定員200人の会場はほぼ満席だった。

 午後1時半に開始。関根氏は最初、自らが医療支援ボランティアを始めたきっかけが大野病院事件だったこともあり産科医療をテーマに開催したいと考えてきたが、事件を取り上げるのは「とても重く、扱い切れない部分があるのではないか」とためらっていたとした。「今年の3月11日に東日本大震災が起きて、福島第一原発の事故が起きて、その時の地図を見て中に大野病院があったのを見た時に、今年立ち上がらなければいけないと直感的に思った」と、加藤医師を呼んでの開催に至ったと話した。
 
*それにしても、加藤氏が一般聴衆の前に立つ日が来ると一体誰が想像しただろう。加藤氏を呼んだのは、パネリストでもある梅村議員だ。彼なら人脈はもちろんのことだが、東日本大震災での透析患者搬送など福島県周辺で彼に恩を感じている人は多い。先日は梅村議員主催の中医協委員5人を呼んでのフォーラムが開かれたばかりでもあり、医療界にとって彼の存在の大きさは日ごとに増しているのか、筆者は霞が関周辺から「関西は一体何をやろうとしているんだ」と聞かれたこともある。

【目次】
P2→被災地の性的虐待問題と、妊婦へのヨウ化カリウム「初期投与失敗」
P3→「妊婦さんの笑顔を見たい」加藤氏、初の一般講演
P4→「グレーを徹底的に黒くするのが警察・検察」
P5→「世界一珍妙な『記者クラブ』、真実は報道されない」

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